中村 幸春さん
瀬野川を楽しむ会 代表
プロフィール
なかむら・ゆきはる
庄原市東城町出身。広島県立西条農業高等学校造園科、広島県立理容美容専門学校卒業。1989年海田町(カイタチョウ)にカットハウス「DREAM」を開業。釣りや川遊びを通じ瀬野川の未来を真剣に考えるようになり、2000年6月に「瀬野川を楽しむ会」を発足。代表を務めている。
大好きな釣りと川遊び 瀬野川の自然を守りたい
幼い頃から川遊びや釣りが大好きで、当たり前のように自然と触れ合ってきました。その楽しみを教えてくれたのは父。遊びのなかで、近年の自然界にさまざまな変化が見られることなどを話してくれ、環境について考える機会をくれました。海田町(カイタチョウ)へ移住したのは結婚がきっかけで、瀬野川をいちもく見て「なんて自然豊かな川なんだろう」と、すごくうれしくなったのを覚えています。大人になっても釣りがすきなのは変わらなかったので、釣りの餌を探しに、よく瀬野川に出かけていました。そんななかで、珍しい魚や水生昆虫をたくさん見かけ、瀬野川が生き物の宝庫であることを知ったんです。水がきれいな場所にしか生息しないカジカやゴクラクハゼ、ドンコなど、希少な魚がたくさん。「これは何としてでも守っていかないと」と強く感じました。
その後、河川の治水工事が始まり、「生き物たちのすみかが危ういのでは」と、「瀬野川を楽しむ会」を発足。魚たちの産卵場所が守れるよう働きかけました。
子どもの笑顔を引き出す自然の遊び場
会が発足したのは長男が小学校6年生のとき。行政の動きにただ異議を唱えるのではなく、川や自然の良さを知り、それを周囲に伝えながら、はなしあうことで自然と共存できる方法を探っていこうと考えました。まずは子どもたちがかよっている学校へ相談し、息子たちのクラスに川遊びを呼びかけました。このとき自分のなかで決めたことがあり、「子どもたちのなかに1人でもケガ人が出たら活動はやめること」「行政や教育機関の中傷はしないこと」「すべて行動と会話で説得すること」などです。対立や争いは良い結果を生みません。社会は皆で作るものであり、子育ては家庭とともに地域がするものでもあると考えたからです。川遊びや生き物観察を通じ、子どもたちのイキイキとした笑顔をたくさん見ることができました。普段はあまりしゃべらない子が、「楽しい」と思わず口にした場面もあり、ゲームや遊び道具がなくても、自然が最大の遊び場だということをあらためて痛感しました。そんな姿を少しずつ認めてもらい、クラーク記念国際高等学校や広島大学生物生産学部、広島市立大学情報科学部の皆さんや、海田町(カイタチョウ)役場、保育所、学校関係者や地域住民の方々など、たくさんの人たちがサポートメンバーとして関わってくれるようになりました。2010年には国土交通省と文部科学省と環境省の連携による「“子どもの水辺”再発見プロジェクト」に登録してもらい、河川保護についての活動がより多彩に行えるようになりました。
取り組みを通じ、思いを共有したい
会は順調に活動を続けていましたが、2018年に豪雨災害が発生。想像を超える被害があり、瀬野川の姿も一変してしまいました。50種以上いた魚たちは姿を消し、生き物のすみかであった中州は消滅。けれど、今まで川に関わってきた私たちなのだから、きっと何かできるはず……。そんな思いでまずは河川清掃からスタートすることにしました。流れてきた流木や土砂を取り払い、護岸を整備。工事を行う箇所は、生き物たちが帰ってきてくれるよう、水が濁らない工法やすみかとなる石を積んでくれるようにお願いしました。河川敷には花を植栽し、景観にも配慮。河川敷にはアレルギーの元凶となりうる植物が多数生えていたのですが、それらを抑制できればと、窒素成分を合成して土壌を豊かにする効果のあるストロベリーキャンドルなどを採用しました。もともと海田町(カイタチョウ)は、以前から自然保護に高い関心を寄せてくれているまち。西田町長が町長になる以前、一緒に花の種をまいたり、ホタルを増やせればと、支流に餌となるカワニナの放流を行ったりしたものです。少し前、サポートメンバーたちの力を借りて、会で「生き物図鑑」「花の図鑑」を作成しました。図鑑には多種多様な生き物、花が掲載されているほか、環境づくりへの取り組みや瀬野川に対する思いもつづっています。手に取る人が、少しでも私たちと思いを共有してくれたらいいなと願っています。
目指すは人と自然の共存“淡水浴場”構想を掲げて
瀬野川が誇るのは、川や河川敷の美しさだけではありません。これだけの広さがあり、トイレも整備されているので、もっともっと活用方法があると思うんです。駐車場を増やし、遠方からも訪れやすくなるような環境にし、誰もが川遊びを気軽に楽しめる場所になってほしい。スケートボードパークでBMXの練習ができるものを設置したり、犬と遊べるドッグランやバーベキューができるような設備を整え、開放してもらえたらなと考えています。浅瀬のほうは水深が膝ぐらいまでしかないので、ほかの河川と比べると比較的安全に川遊びができます。一方で、そのような河川の活用を行うのであれば、利用者のマナーが必ず問われてきます。持ってきたゴミは持ち帰る、決められた時間内で利用するなど、あらかじめ定めたルールを守らなければなりません。そういった意味合いでも、まずは川に親しみ、自然に触れ、瀬野川と周囲の環境を大好きになってほしい。そうして当たり前のように皆が「この川と景観を守っていこう」という意識が持てるようになったら、海水浴場ならぬ“淡水浴場”を構築して、より多くの人に愛される場所になっていってほしいなと思います。
MY Favorite 海田のお気に入り
菜の花が満開の瀬野川河川敷
例年3月から4月にかけて、黄色く染まる瀬野川の河川敷。桜に合うのはやっぱり菜の花と考え、以前に種をまいたものがひろがり、美しい花々を咲かせてくれています。外来種の種もありますが、外来種、在来種関係なく、川べりをきれいに彩ってほしいです。