板谷 裕美さん
安芸地区医師会総合介護センター統括所長
プロフィール
いたや・ひろみ
看護師としてキャリアを積み訪問看護ステーションの所長に。現在は安芸地区医師会総 合介護センターの統括所長を務め地域医療•福祉に 貢献。看取り介護やACP(アドバンスケアプランニン グ)の普及、ホスピスボランティア養成などに力を入れ、県内外のセミナーや講演会などで活躍する。
地域医療•福祉をサポート在宅看取りに力を注ぐ
安芸地区医師会総合介護センターは、平成5年に開設した海田訪問看護ステーションが始まりとなります。当初は看護職のみでしたが、現在では理学療法士、作業療法士・言語聴覚士といったリハビリテーション専門職種も在籍しており、自宅で療養生活を送られている方々のサポートをおこなっています。また府中町や熊野町に、訪問看護・居宅介護支援・訪問介護の事業を展開しており、地域の医療機関や事業所など多職種多機関と連携しています。
人生の最期をどう過ごすか、自宅での看取りは早い段階から大切に考えていました。「最期は自宅で迎えたい」「施設でお世話になるギリギリまで家で過ごしたい」という希望がある中で、利用者ご本人とご家族が、いかに満足した時間を過ごせるかに焦点を当て 手助けをしています。もちろん、自宅で最期を迎えることが最良と考えているわけではありません。身体に不安のある方は、介護施設で過ごすほうが安心な場合もあると思います。
活用してほしい、終末期医療の支援
人生の最終段階を過ごす際にだいじになってくるのが、利用者ご本人の希望に加え、ご家族のサポート体制。介護する側が倒れないよう無理をし過ぎないことが重要です。相談できる、あるいは協力してくれる支援者がいないご家族が、精神的に追い込まれるケースもあります。そこで公的医療保険や介護保険サービス以外に活用してほしいのが平成20年から安芸地区で養成しているホスピスボランティアです。研修を受けたボランティアは、さまざまな交流の場で活動しています。病気の不安や悩みなどがん体験者同士で分かち合う「がんサロン」や悲しみを癒す場として「わかちあいの会」、安芸市民病院緩和ケア病棟での活動があります。また、自宅に訪問する「訪問ボランティア」は、ただそばに居たり、趣味の活動を手伝ったり、外出に付き合ったりできます。自分の時間がほしいというご家族に利用してほしいです。医療関係者ではないボランティアだから話せることもあるようで、医療・介護関係者では対応しきれない心の受け皿になっていると感じます。利用希望や活動に興味のある人は、ぜひ問い合わせてみてください。(現在新型コロナウイルス感染症の影響により中止しています)
また、安芸地区医師会では、訪問看護師によるグリーフケア(悲しみを抱えた人たちに心を寄せて受け入れ、その人たちが立ち直って自立できるよう支援すること)も実施しています。利用者さんを看取られたご家族に定期的に連絡をしたり、しのぶ会を開催して悲しみを共有する場を設けています。悲嘆の強いかたには個別訪問でのサポートもおこなっていますので、つらいときは遠慮なく頼っていただけたらと思います。
元気な時こそ考えておきたい意思決定
安芸地区医師会は約10年前から、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)人生会議の普及に取り組んでいます。これは患者さんとご家族が、患者本人の意思決定能力が低下する場合などに備え、今後の医療や介護方針などについてあらかじめ話し合っておくことを指します。多くの人は「もしもの場合どうする」という話をすると、「縁起でもない」という言葉で片づけてしまうのではないでしょうか。しかし、“もしも”は予期せぬ場合にやってくることが多いのです。
そして、治療方法や療養場所などの決断を迫られます。「こっちの治療法を希望していた気がする」と不確かな情報で判断するのは、ご家族も負担が大きく、悔いが残ってしまう場合もあります。元気なときにこそ、「病気になったらどうする?」「介護が必要になったらどうする?」「どんな最期を迎えたい?」ということを、話し合ってみてください。また、健康な時と、病気になってからでは、気持ちが変化するのもよくあることです。話し合いは一度でなく、人生の節目や生活環境が変わった際など、定期的に行うことが大切です。
特に、人生の最終段階における医療やケアを具体的にどうするか?を決めるときには、本人や家族だけで決めてしまわず、医師や看護師など、医療従事者と十分に話し合いましょう。
医師から病状の説明を聞き、適切に状態を把握した上で、どうするかを検討し意思決定していくことが大切です。また、「最期の時間を自宅で過ごし家族に看取られたい」という本人の意思があるときは、家族間でも共有しましょう。医師などの医療従事者やケアマネージャーに十分に相談して適切な医療、介護サービスの体制を整えることが望ましいです。本人が希望するできるだけこれまでと変わらない穏やかな生活ができるように、家族や親しい人とゆっくりと過ごせる時間を作ったり、すきな音楽をかけたり、思い出の品物をそばに置いてあげたりしても良いですね。
訪問介護や訪問看護の体制を整え、充実したサポート環境があったとしても、毎日の介護や最期の時を看取るのは家族です。そのときには本人にどのような言葉をかけるかなどの心構えも必要です。
また、ACPについてお伝えする「私の心づもり講座」という出前講座を、自治会や地域のサロンでも開催しています。ぜひお声掛けください。
住み慣れた地域で最後まで自分らしく生きるために
海田町(カイタチョウ)は、安芸市民病院やマツダ病院、済生会広島病院といった基幹病院が周囲に点在し、医療サービスにおいて恵まれた地域だと感じます。11月24日(木曜日)には、ひまわりプラザにて在宅看取りに関するセミナーを開催します。在宅看取りに携わった医師や訪問看護ステーションの職員、ケアマネジャー、ご家族が参加し、実際の事例を用いながら看取りまでの経緯などをお話しします。実際に看取りを体験されたご家族の体験談も紹介するので、自分ごととしての看取りを考える良いきっかけになるはずです。ぜひたくさんのかたに聞いていただき、何かひとつでもプラスになる情報を持ち帰っていただければと思います。(くわしくはP23)住み慣れた地域で、最期までその人らしく生きられることが私たちの目標であり、多くの人が願うところ。自分の意思を周りに伝え、最期まで自分らしく過ごすために、まずは”知ること”から始めてみませんか。少子高齢化、核家族化など家族形態の変化による問題はありますが暮らしやすいまちづくりと自身が望むこれからのありかたを、一緒に考えていきましょう。
MY Favorite 海田のお気に入り
瀬野川が流れる開放的な景色
街の真ん中を悠々と流れる瀬野川のある景色が、私のお気に入り。季節や天候によって違う表情を見せてくれるので、毎日見ていても飽きることがありません。仕事の疲れやプレッシャーを感じるときに川を眺めると、不思議と心が癒されエネルギーをもらえます。