こうわシンギュラリティ高校ひまわりプラザ1階ロビーで、今年3回目の町長タウンミーティングを開催しました。ゲストスピーカーはひまわり歯科院長の岡本佳明さんと、学校法人幸和学園理事長の新谷耕平さん。2階のオープンスペースで遊ぶ子どもたちの声が響く中、教育や医療、まちづくりに取り組むお二人とともに、今、求められるこども・若者のサードプレイス(居場所)のかたちを探りました。
《医療法人社団湧泉会 ひまわり歯科院長 岡本佳明氏》
院長を務めるひまわり歯科は、日本歯科医師会が提唱する地域支援型多機能歯科診療所のモデル医院。管理栄養士が常駐し、口腔ケアの観点から栄養指導を行うなど独自の取り組みも行っている。
《学校法人幸和学園理事長 新谷耕平氏》
町内で2件のこうわ認定こども園と放課後児童クラブを運営する学校法人幸和学園理事長。この春、通信制高校のシンギュラリティ高校を開校。自由度の高い独自のカリキュラムで新しい教育方針を提案している。
《海田町長 竹野内 啓佑》
10年後、誰もが憧れるまちを目指し、日々奮闘中。お気に入りのサードプレイスは、屋外では癒しの空間「瀬野川河川敷」、屋内では読書に没頭できる「カフェ」。
まずはゲストのお二人が現在取り組んでいる居場所づくりの事例についてご紹介いただきました。
最初に登壇したのは岡本佳明さん。持続可能な地域医療を目指し、歯科医師、歯科衛生士の教育にも力を注ぐ一方で、地域の“健康を支える場所”としての居場所づくりにも取り組んでいます。
岡本佳明さんは本平成22年にひまわり歯科医院を開業。
その後、多様化する歯科ニーズに応え医療法人化。現在は総勢140名のスタッフを抱え、後進の育成に力を注いでいる。
「病院に行くほどじゃないけど、相談したいことがある」そんな時に気軽に行ける場所をつくりたいと思い、令和元年に『暮らしの保健室すまいる』を立ち上げました。立ち上げ当初は利用者も少なかったのですが、令和4年に『タニタカフェ』さんとのコラボカフェ『ひまわりカフェ』をオープンして多くの方に利用いただけるようになり、今は地域の人の居場所になってきたなと感じます」と顔をほころばせました。
カフェではひまわり歯科の管理栄養士や調理師が調理する栄養バランスの整った健康ごはんを提供、骨密度や体脂肪量の測定や健康相談もできる。
また後進の育成にも努める岡本さんは、県内で6校目となる歯科衛生士の専門学校も開設予定。「AIが進化する現在、逆に人間の手が必要とされる歯科衛生士という仕事は強みになる。学び直しや人生後半の新しいキャリアを見つけるための選択肢にしてほしい」と会場にも呼びかけました。
続いて登壇したのは、学校法人幸和学園の新谷耕平さん。
自身が運営するこども園の卒園児が、小中学校で不登校になっていると相談を受けたことをきっかけに、平成28年、通信制高校のサポート校の運営をスタートしました。
3つの学校法人を抱える新谷さんは、海田町で2つのこども園と1つの児童クラブを運営。
令和7年4月からひまわりプラザのネーミングライツ・パートナーも務める。
ニーズは想像以上に大きかった一方で、学費の負担やスクーリングの制約といった課題もあったことから、新谷さんは通信制高校の設置認可を取得し、「シンギュラリティ高校」を設立しました。
令和6年からバンコクで日本人幼稚園も運営。国内外の現場体験を通じて、子どもだけでなく、保護者にも“安心できる居場所”も大切だと感じたという。
現在、広島県内には約8万人の高校生がおり、その約1割の8千人が通信制高校を選んでいるとした上で「これから学びのスタイルはもっと多様になっていくはず。だからこそ、8万人の高校生全員にとって“魅力的な選択肢”となる学校を目指したい」と抱負を語りました。
お二人の話を受けて町長は、「居場所には『ありのままの自分を受け入れてくれる場所』『自分の役割がある場所』『自分と違う世界との橋渡しになる場所』という3つの要素があると思うが、お二人がつくっている場所はまさにそんな居場所になっている」と共感。後半はさらに「サードプレイス・居場所づくりに何が必要か?」という話題に発展しました。
医院で働く多くの女性を見て、女性が職場とプライベートを切り分けることの難しさを実感したという岡本さんは「職場にこそ居場所が必要」と語ります。その思いから、一人ひとりに役割と輝ける出番がある“村”のようなコミュニティづくりを大切にしているといい、具体的には出産や育児、介護など、ライフステージに応じた働き方ができるよう職場環境を整えるなどして、産休後の復職率はほぼ100%を達成したそうです。
「ひまわり歯科には女性のロールモデルがたくさんいる。若い人たちにとって“こんな働き方もできるんだ”という希望になっていると思う」と、笑顔で語りました。
一方、新谷さんは、スマホでAIやDX、動画編集ソフトまで自在に使いこなす10代の姿を見て、「今の10代は感覚も価値観も僕たちの世代とはまるで違う。おそらく彼らは用意された居場所は求めていなくて、自分たちの手で居場所をつくろうとしているのでは」と語り、だからこそ「大人は行き止まりをつくらず、彼らがのびのびと力を発揮できるように、可能性をひらいてあげたい」と力を込めました。
サードプレイス・居場所づくりをめぐる話は尽きない中、最後に町長から「海田町ならこんなサードプレイスや居場所をつくれるんじゃないか」という提案を聞かせてほしいと求められ、岡本さんは海田町のポテンシャルについて「海田町は中国地方で唯一、自然増で人口が増えている特別なまち」とした上で、「若い世代も多いので、その感性やエネルギーを引き出すようなアートのある風景をもっと増やしてほしいですね」と回答。
新谷さんも「人口や面積の広さなど、恵まれた経営資源をを生かして大学や大学院のような高等教育機関を誘致してほしい。高等教育機関ができれば研究所やIT企業も集まってくるなど発展性もあるし、若者はもちろん、中高年の学び直しの場にもなる」と、海田町の未来に期待をにじませました。
それぞれの提案を受け、町長は「職場・住まい・学びの場が近接するこの環境は、私たちの大きな強み。今後はお二人のような方々と官民、民民の連携を活かしながら、仕事や子育て、教育の場における居場所を増やして、“ひとにやさしい、ヒューマンスケールなまち”を、皆さんと一緒につくっていきたい」と抱負を語り、イベントを締め括りました。